街角スナップ写真考(街角で見知らぬ人を写すのは是か非か)

 前に「【13】スナップ写真考(街で写真を撮ることの難しさ)」という文章を、同じこの「身勝手随筆集」のコーナーに書いたが、もう1回ここでスナップ写真について考えてみたいと思う。

 それもここでは街角などで他人を撮ることに絞って考えてみよう。

 カメラ雑誌などを見ると、プロが写した写真にしても、コンテストのコーナーにしても、明らかに街角で他人を写した写真が載っていることに気づくと思う。
 だいたい、かのロバート・キャパにしたって木村伊兵衛にしたってその手の写真をたくさん写している(かなり時代は違うけれど)。

 もちろんここでいう「街角で他人を写す」というのは、「無許可で勝手に写す」ということだ。許可をもらった上で写すのなら何の問題もないことは言うまでもないことだから。

 要するにここでのテーマは、「勝手に無許可で他人を写していいのかどうか」ですね。

 まずこれを覚えておいてください。
 それは「人には肖像権というものがある」ということ。肖像権とは「自分の写真を無断で撮影されたり公表されたりするのを拒否する権利」のことだ。

 ところがじつは「肖像権」を規定した法律って日本にはないんですよ。あくまで過去の裁判の判例の蓄積から、上に書いたような定義ができあがっただけなんです。
 だから問題になることが多い。

 肖像権を厳密に考えると「決して勝手に他人を写してはならない」ということになってしまう。これではうっかり観光地で写真を撮ることもできなくなってしまいますね。
 だって人の多い場所で写真を撮れば、絶対にそこには他人が写りこんでしまうでしょう?

 さて、このあたり、どう考えたらいいんだろう、と私が悩んでいたら、「アサヒカメラ」の2004年1月号に、「知っておきたいスナップ写真のルール」という特集があった。

 それがまさに肖像権の問題に触れた内容だった。
 そしてそこに、「公道など公的生活領域(パブリックスペース)での撮影は、承諾がなくても肖像権を侵害したことにはならない」と書いてあったのだ。

 要するにまず撮影場所を「公的生活領域(パブリックスペース)」と「私的生活領域(プライベートスペース)」に分けるわけですね。そして相手がプライベートスペースにいるところを勝手に写したものは×というわけです。

 これには異論はないでしょう。例えばよその家の庭で遊んでいる子供を勝手に写すのはまずいですよね?まして家の中にいる人を写したりしたら、それこそ「盗撮」。こうなれば立派な犯罪です。

 残るはパブリックスペースでの撮影はどうか、ということになる。
 で、これが、「基本的にはパブリックスペースでの撮影なら、無許可で他人を写してもOK」ということになっているわけです。

群集シーン
(このような群集シーンならまず問題ない)

 その特集はある弁護士と日本写真家協会のお偉いさんの2人の人が○×形式で、様々なケースでの写真撮影の是非を判定しているのだが、例えばパレードやお祭に参加している人たちならばほぼ無条件に○。横断歩道を渡る人の群れも○。「観光地の屋台で働くおばさん」も○。そして「公園のベンチに座る女性」ですら、基本的には○にしているんです。

 最後の「公園のベンチに座る女性」は、さすがに片方の人は「人物があからさまに特定できるような場所は気をつけよう」とはしているものの、それでも×にはしてない。

 但し、パブリックスペースならなんでも無条件でOKというわけではない。
 その雑誌でも、

公道など公的生活領域での撮影は、承諾がなくても肖像権を侵害したことにはならない

としながらも、次のような但し書きを付けている。

しかし、撮られた人が恥ずかしくなるような内容を撮影することは肖像権の侵害になる可能性がある

 具体的にいえば、ズボンのチャックが開いている男性の写真、大口を開けて居眠りをしている人の写真、スカートがまくれている女性の写真などは、「撮られた人が恥ずかしくなるような内容を撮影」していることになるから、×というわけですね。

 このあたりは常識的に考えれば分かることだと思う。他人を辱めるような写真を撮れば、そりゃ訴えられてもしょうがないでしょう。

 要はこのあたりはマナーとかモラルの問題だと思う。「自分がこんなの写されたらいやだなあ」と思う写真は写さないことです。

 しかし人によっては「パブリックスペースにいるときでも写真なんか写されるのはいやだ」と思う人もいるでしょう。
 私だって知らないうちに写された写真が勝手に写真雑誌などに、それもアップで載っていたりしたら、あまりいい気分にはなれない。いくら悪意のある写真じゃなかったとしても。

 というわけで私も最近の情勢からして、顔がはっきりと分かる写真は、明らかに他人に写されることが本人も分かっているパレードやお祭に参加している人の写真以外、写すだけならまだしも、ホームページなどで勝手に公開するのはまずいんじゃないかと考えている(もちろん本人に撮影や公開の許可をもらったのなら、この限りではありませんよ)。

 良識あるネットの画像掲示板などの場合も、顔がはっきりと写っているスナップ写真は×にしているところが増えている。

 というわけで、たとえばこの「紅葉をケータイで写そうとしている女性の写真」あたりがギリギリセーフってところじゃないかなあ(これだって「まずい」という考え方をする人がいると思う)。

ケータイで紅葉を写す女性

 それにしても、まさにこのケータイにカメラ機能が加わってきたあたりから、盗撮問題などが急に浮上してきたような気がする。
 そしてみんながプライバシー(肖像権)の侵害に必要以上に神経質になってきたように思える。

 また、上でも少し触れたインターネットという新しいメディアの登場も大きな影響を与えているのではないだろうか。「デジカメで写真を撮られるとネットにその画像を流される」と恐れる人たちが増えてきたのだ。

 だから街角でのスナップ写真が大変撮りにくい時代になってきたと私も感じている。最悪の場合、普通に「街角スナップ写真」を写していても「盗撮魔」にされてしまう恐れがあるのだ。

 正直、「昔はもっとおおらかだったのになあ」と思わなくもない今日この頃です。

 みなさんも、マナーに反さない範囲で、楽しい写真をたくさん写してください。

◎参考文献「アサヒカメラ(2004年1月号)」



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