富士山　大登山記　その九

　（ 「富士山　大登山記　その八」　からの続き ）

● 登頂成功！

　7時41分頃、遂に山頂直前の鳥居まで到達。

　「へえ。何だか最後はあっけないな」が私の感想だった。ネット上の登山記録を読んでると、最後は「一歩歩いてはまた休み」とか書いてあったから、もっとヘロヘロになるのかと思っていたのだ。

　ま、これも中年男らしく無理をせず、徹夜登山ではなく一泊登山を選択した結果だろう。

　この鳥居の場所は撮影の定番ポイントということで、私も外人に1枚写してもらった。


　7時46分、河口湖口、吉田口、須走口の頂上に当たる久須志（くすし）神社に到着。

　富士山の8合目以上は浅間大社の奥宮ということで、実際に浅間大社というのも富士宮口にある。
　じゃあ久須志神社って何なのかというと、やっぱり浅間大社みたいだ。っていうのも、右側に見える大きな石の柱に「富士山頂上浅間大社奥院」と書いてあったからだ。

　私も一応中に入り、お賽銭を上げた。しかし記念品は何も買わなかった。何しろお馴染みの金剛杖すら買わなかったくらいだからね。

　そう。5合目の富士急雲上閣をはじめ、多くの場所で目にした金剛杖だが、私は結局買わなかった。

　金剛杖に焼印を押してもらうのは富士登山の楽しみの一つになっている。
　しかし常に片手にEOS Kiss Digital Nを持っている私には邪魔者以外の何物でもなかったからだ。

　ま、次回の楽しみにとっておくさ。

　ところで私は大感激したのか。

　それがそうでもない。手帳にはこう書いている。

　　　　　　　達成感？それなり・・・

　喜びを分かち合う相手のいない単独登山だと、こんなもんかなあ・・・。

● 富士山頂で迷う

　さて、久須志神社の場所の標高は3720mとか。一方富士山の標高は3776mだ。

　そう。まだ本当の頂上ではないのだ。ここまで来たからには意地でも3776mの剣ヶ峰を目指さなくてはならない。


　剣ヶ峰があるのは久須志神社のほぼ反対側。山小屋が立ち並ぶ賑やかな道を進んでいく。

　残念ながら思っていたとおり富士山頂はすっぽりと雲（霧）に覆われていて視界はかなり悪かった。
　しかし風は強かったものの、寒さの方はそれほどでもなかった（動いていたせいかもしれない）。

　ちなみに10年ほど前に放映されたNHKの「中高年のための登山学・日本百名山をめざす」の富士山の回の話によると、富士山頂の酸素は平地に比べると63%しかないという。
　でも「酸素が薄い」などという実感はまるで湧かなかった。はしゃがない限り普通に行動できるってところか。


　こんなところにDyDoの販売機が。缶コーヒーは400円、お茶や水の500mlのペットボトルは500円。
　少々高いけれども、真夜中に山頂に着いた人にとっては、温かいコーヒーが飲めるのは嬉しいだろうなあ。


　山小屋群を通り過ぎると急に殺伐とした道に変わる。とにかく私は霧の中を道なりに進んでいった。

　しかし何か様子がおかしい。段々下っていくではないか。

　しまった！いつの間にか下山ルートに入ってしまっていたんだ！


　あわてて引き返し、今度こそ真っ直ぐに進んでいく。

　そしたら木の鳥居のある場所に着いた。その下には賽銭箱。

　いったいここは何処だ？

　ものすごい強風の中、あたりには鈴が散らばっていた。まるで地の果てに来たかのような異様な風景だ。


　戻ろうとしたら、ご覧の若者2人が現れた。

　彼らはそこを剣ヶ峰だと思っているようだったんで、「違いますよ」と説明する。
　ついでなんで彼らに写真を写してもらった。

「ありがとうございます。もう危ないから帰ります」（と私）
「独りで来られたんですか？」
「はい」
「すごいですね」

　異常な環境の中にいるという興奮からか、妙に若者たちと話が弾んでしまった。
　誰かとこの高揚感を分かち合いたくてたまらないのだろう、きっと。


　どうしても剣ヶ峰は目指してみたい。しかし視界がゼロに近くて全く向かう先が分からない。

　そこへまた吹き飛ばされんばかりの突風が・・・。
　そう。富士山は時に風速50mもの風が吹き荒れる「風の山」なのだ。

　「危険過ぎる。これはもう下山するしかない」と私は自分を納得させたのだった・・・。