富士山登山記 2008　その六

　（ 「富士山登山記 2008　その五」　からの続き ）

● 遂に山頂に立つ！

　7合目の大陽館から歩くこと3時間。最後の鳥居を通過。


　そして8時12分、河口湖口、吉田口、須走口の頂上に当たる久須志神社に遂に到着！

　大陽館から3時間2分の今回の富士登山は、とてもきつかった。恐らく今までのどの登山よりもきつかったと思う。

　やはりこれは、寝不足が大きく影響していたんじゃないかと思う。何しろほんの2〜3時間しか寝てないのだから。

　そのくせ山頂では特に寝不足を感じていたわけではなかった。「少しでもいいから横になりたい」なんていう気持ちは微塵もなかった。
　ひょっとしたら「早起きして運動」というのが私の体に合っているのかもしれない。


　さて、神社の前にはご覧の「富士山頂上浅間大社奥院」と書かれた大きな石柱がある。ここが最高の撮影ポイントだ。

　私はこの場所で若者に頼んで記念撮影をした。

　「もう1枚撮りましょうか？」と彼。
　モニタを見て「バッチリです」と私。

　で、苦しい登山を終えて山頂に着いて感激したかというと・・・また今年も特に思ったほどの感慨はなかった。

　っていうか、私はこの地点では手帳に何も書いてない。「遂に登ったぞ！」のような興奮した文面すらない。

　まあ、去年ですら感動がなかったのだから、これはしょうがないか・・・。

　しかし今年の私には目的がある。それは「剣ヶ峰を極めること」。

　そう。去年の私は標高的にいうとこの高さまでしか来れなかった。この久須志神社のあたりの標高は3720mほど。一方皆さんがよく知っている富士山の標高は3776m。あと56m足りない。

● お鉢巡りを始める

　神社で手を合わせたあと、山小屋が立ち並ぶ賑やかな道を進んでいく。
　山口屋の前だったか、DyDoの販売機が設置されている。お弁当を食べるときに備えて、そこで500mlのペットボトルのお茶を購入した。
　1本500円とかなりの金額だが、まあ仕方ない。


　そう。山頂まで、このようにブルドーザーで物資は運ばれてくる。この手間隙や輸送費を考えたら500円ぐらいしても不思議はないのだ。


　山小屋群から10分もかからないうちに、ご覧の富士山の火口が見えてくる。
　そして正面に小さく見えているのが目指す富士山測候所だ。

　火口の直径は久須志神社から富士山測候所までで780mで、火口の深さは200m以上あるということだ。

　ちなみに富士山の山頂部分を火口に沿って一周することを「お鉢巡り（おはちめぐり）」という。いわば日本最高地点のトレッキングコースだ。

　山頂に立った時点で天候に問題がなく、まだ余力があるのなら是非このお鉢巡りを行いたい。
　歩行距離は3キロ。平均的な脚力で1時間半ぐらいかかるそうだ。


　日差しが燦々と照っていた。一方風はほとんどない。ガスと共に冷たい強風に泣かされた去年がウソのようだ。
　よく、ハイテンションな外人さんは半袖で登頂したりするという話を聞くが、このくらいの陽気ならそれも分かる。

　8時28分、恐らく大日岳と呼ばれているあたりを通過。私が去年到達した「木の鳥居のある場所」とはここなのだ。振り返ると河口湖口の山頂の山小屋の喧騒がよく見える。


　大日岳の左を巻くようにして更に先に進んでいく。
　これは8時半頃写したパノラマ写真。
　富士山の噴火口跡がぱっくりと口を開けている。何だか火星でも探検しているような気分だ。

　ちなみに富士山頂の酸素は平地に比べると63%しかないという。
　しかし特に「酸素が薄くて呼吸しにくい」などという実感はまるで湧かなかった。
　しばらくは平坦な道が続いているためだろう。

● 富士宮口山頂あたり

　8時43分、道が下り始める。左側には鉄の手すり。
　そして正面に久々の建物が見えてくる。どうやら御殿場口・富士宮口の山頂のようだ。


　8時47分、富士宮口の山頂に当たる浅間大社奥宮に到着。御殿場口への下山路もこのすぐ手前にある。


　そして浅間大社奥宮の左側に、有名な富士山頂郵便局があった。7月10日〜8月20日ぐらいのハイシーズンのみ営業している貴重な郵便局だ。

　ケータイの時代になっても、ここから記念に家族や友達、そしてまた自分宛に葉書を出す人が多いらしい。ここから投函すると富士山頂の風景が描かれた消印が押されるからだ。
　私はここで葉書セットを購入した。

● 遂に剣ヶ峰に！

　富士山測候所を目指して歩き始める。富士山測候所はまるで赤い瓦礫の山の上にかろうじて立っている人工建造物って感じだった。よくあれで崩れないものだ。


　最後は俗に「馬の背」と呼ばれる厳しい急坂。疲れ切った体にはこの坂は相当こたえる。
　だからお鉢巡りを反時計回りに巡る人も多いのだが、「ここを登ってこその剣ヶ峰！」と思い、私はあえて今回時計回りに挑んだ。


　9時4分、遂に3776mの富士山剣ヶ峰に到着！ここより高い場所は日本にはない！

　みんなが次々順番に、「日本最高峰富士山剣ヶ峰三千七百七十六メートル」と刻まれている石柱のところで記念撮影をする。

　もちろん私もここで若者にカメラを渡して記念撮影を頼んだ。
　みんないいやつらばかりだった。

　ところで、富士山測候所のシンボルとして昭和39年以来登山者に親しまれたレーダードームはもうない。
　そして富士山測候所自体、2004年秋に無人化されてしまった（無人状態で気温・湿度・気圧の観測は続けられている）。
　ちょっと残念だが、建物自体はそのまま残っていたんでほっとした。

　このときは流石に少しは感動があったはずだ。だけど手帳には、

　　　　　　　つかれた・・・息切れた・・・

と書いてあるだけ。感動の文章が何もない。
　う〜ん。日本最高地点に立ってもこんなもんか・・・。


　剣が峰から下り、お鉢巡りの後半に入る。

　9時11分、噴火口側に広場のようになっている場所があったんで、そこで朝食を摂ることに決めた。

　大陽館から渡されたお弁当には、わざわざ真空パックされた海苔が入っていた。あとのおかずは、卵焼き、肉団子、アジのような魚などだ。
　はっきりいってたいしたおかずじゃない。

　だのにいざ食べだしたら、これが死ぬほどうまい！
　海苔がうまい！ご飯がうまい！そして卵焼きがとてつもなくうまい！

　手帳にもわざわざ「なぜだろう。ふしぎだ」と書いているが、本当に不思議だ。
　何故なら最近の私は山頂であまり食欲がないことが多いからだ。何故このときに限って「死ぬほどうまい」と感じたのだろう？

　だいたい、睡眠時間2〜3時間だったら普通はもっとフラフラしているはずでしょう？それが朝5時からこうしてずっと歩け続けていられること自体、そもそも奇跡的だ。
　これこそ富士山の持つ不思議なパワーなのかもしれない。

　そしてこのとき私はやっと、少しだけ幸せな気分に包まれていたのであった・・・。